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鎌倉時代の奈良仏師(5)快成 愛染明王坐像

鎌倉国宝館長・半蔵門ミュージアム館長 山本勉

Source: Nikkei Online, 2023年8月2日 2:00

奈良国立博物館蔵

この愛染明王像は台座の裏に銘記があり、東大寺大仏殿の取り替え柱を用材として、快成(かいじょう)という仏師が快尊・快弁という弟子をともなって、建長8年(1256年)に造ったことがわかる。仏師3人は八斎戒を持して、つまり身を清めるために八種の禁戒を守って造像にあたったという。願主は寂澄という僧で、西大寺中興の叡尊の高弟の一人だった。造像の場所は随願寺という現在の京都府木津川市にあった寺だったが、その後の伝来ははっきりしない。明治時代には興福寺にあったようだ。なお、奈良国立博物館に寄託されている奈良・春覚寺地蔵菩薩(ぼさつ)像にも台座に銘記があり、愛染明王像と同時にまったく同様の経緯で快成らが造ったことが知られる。

快成の名からも、弟子の名からも、彼らは快慶派の仏師と考えざるをえないが、像の瀟洒(しょうしゃ)で工芸的な作風は快慶のそれとは少し異なり、むしろ善円ら善派仏師との共通点が多い。叡尊につながる律宗の僧の発願であり、造像にあたっての敬虔(けいけん)な態度も善円たちと似ている。やはり快慶派の仏師は、善派仏師のなかに流入し、しかも重要な位置をしめていたのだろう。
(1256年、木造、彩色、切金、玉眼、像高26.2センチ、奈良国立博物館蔵)